談合の話 その2
一昔前の話だから、今の公開入札がどうなっているかは知らない。
ボクは民需営業が主体だったので、官需の公開入札の経験は少ない。少ないと言っても十数件は参加しただろう。そのすべては談合により事前に仕組まれ、談合やぶりが出ぬ限り、入札は形式的なものだった。また談合やぶりは一度もなかった。業界から村八分にされるのが怖かったからだ。
形式的と言っても、会社を代表して入札に参加するのだから、社長の委任状がなければ参加資格はない。
ある入札の時だった。チャンピオンとなったS製鉄が、社長委任状を持参せず失格になりそうな事態が発生した。S製鉄の担当者のチョンボで危うく数十億円の工事がパーになる事態である。Sの担当者は顔面蒼白、なにかコソコソと発注者と話し合っている。
聞けば、部門長の専務取締役の委任状を持参したが、代表取締役ではないため、発注者から不適格とされたのだ。一般的な見積書では、担当部門の部門役員の印鑑で入札している。社長印まで押すことはめったにない。Sの担当者は勘違いして部門長の委任があればでOKだと勘違いしたのだ。
このような場合は、社長から部門長に委任状がなされ、部門長から担当者に再委任状が発行されなければ入札参加資格はない。
入札時間は決められているから、遅れたり、入札資格が整っていなければ、本来ならS製鉄は失格である。
ところが・・・発注者は、入札時間を2時間繰り下げ、その間に委任状を取ってくるようにSに便宜を図ったのだ。
これがガチンコ勝負なら他の入札者は黙って見過ごすことはないが、すべてが談合会のお仲間である。苦笑しつつも、受け入れざるを得なかった。
各社がSのチョンボを寛容な精神で受け入れたのは、Sへ貸を作ることに繋がるからだ。次回の入札では、有無を言わさずSを、降ろすことができる。
S製鉄は業界リーダーで、国家公務員のようなエリート集団だが、商社が仲介するケースが多いのか、直接の営業行為は不得手なのだ。ボクが担当する分野は、当社が実績NO1でSを凌駕していた。
後日談となるが、S社の担当者は、部長をともどもに各社に謝罪回りと、宴席を設けたのは当然のことであった。
このように土建業界に限らず、10数年まえの官需発注は、ほぼすべて、官製談合がまかり通っていた。
入札は八百長で、1回目は予定価格をオーバーさせ、その後すぐに再入札が繰り返され、何回目で予定価格から下げて落とすか、事前に申し合いがなされていた。入札参加の各社には事前に数回の入札金額が指定され、その通りに入札箱に金額を書きいれた札を投函するのだ。札はその場で開封され発表される。
入札をもっともらしく見せかけるため、予定価格に追いつけないと再入札辞退する会社のストーリーまで決められることすらあった。
豊洲市場のように予定価格の99.8%で落札できたのも、チャンピオン価格を下回ってはいけない業界ルールが厳然とあるからできる結果である。この落札価格を見る限り、かなり巧妙に今でも業界談合が行われていると考えざるを得ない。
このように、入念な事前準備と根回しをチャンピオン会社は行っているので、入札時に突然に資格停止になられても他社は困るのだ。
だからと言って、裏金でチャンピオン資格を得ることは、少なくとも、ボクがチャンピオンになった物件では、一度もなかった。談合のチャンピオン資格は、あくまで事前の技術力と営業力が勝敗を左右する決め手であった。
国内市場だけで見れば、談合は日本的な美徳ともいえる。だが、それは国際社会では通用せず、競争力低下につながるのだろう。