浜の真砂は尽きるとも・・・世にオーディオの種は尽きまじ・・
欲望の泉が尽きた時は人生の終焉かもしれない。ものを整理して捨てる年代になったというのに、この男の欲望はますます衰えることがない。
一昨日の日曜日だった。常連のお客さんとオーディオ談義をしていたら、奇しくもその方も、あるスピーカーの音が忘れられないと意見が一致した。それは、イギリスのHARBETH HL-Compact というモニタースピーカーである。
ボクがこのスピーカーと出会ったのは、1987年、40歳の時だった。オーディオ雑誌で評判だったから、すぐにオーディオ店に飛んで聴いた記憶がある。音を聴いて衝撃的だった。何とも心地よい響きを持った明るく抜けの良い音ではないか。ヴァイオリンの弦の響きと言い、ヴォーカルののびのびした音質と言い、20センチのモニタースピーカーで、こんな自然な音のスピーカーと出会ったことがなかった。容姿端麗・その清々しさと言ったら吉永小百合にも引けを取らない。
一目ぼれしたボクであったが、そのころマンションを購入したばかりで、リビングはモデルルーム並みに整理整頓されていた。とてもじゃないが2台目のスピーカーを置くなんてカミサンの許可が出るはずもなかった。
それから、オーディオショップで比較試聴するたびに、ほれぼれするHARBETH HL-Compactの音に恋心はつのるばかりだった。何回か中古の出物と出会ったが、躊躇している間に売れてしまった。
そんな話をしていたら、お客さんが、「八王子堀之内のハードオフで、ネットグリルはないけど、いいものがありますよ。私も欲しいんだが、置く場所がなくって・・」
ム・ム・・・ボクの寝ていた恋心がこの言葉でうごめきだしてしまった。ネット・オークションの値段より5割は安い。ともかく・・行って会ってみよう。
我が家から、堀之内は20キロくらい離れている。車はないし・・天気も良いから、自転車で行っちゃえ!!!多摩川の関戸橋を渡ると、多摩ニュータウン方面に向かって緩やかな登りである。1時間半かかって、その長年の恋人と会うことができた。
箱に傷もないし、外観は新品状態を保っている。保障は3か月ある。店員に聞くと音出し確認はしたそうで、問題があれば返品可能とのこと。それで昨日、ラジオ体操仲間のYさんの車で運び込んだのである。
カミサンはワクワク顔のボクを見て、「なんか、買ったでしょう?」と問い詰める。でかいものを買うときは、いつも後の祭りにしないと成就できないのだ。「これが最後の道楽だから許してね。」って何回云ったことだろう。ともかくも長年の恋人は、タンノイ・Rヨークの上に鎮座することになった。縦に置くと安定感が無いので横置きにした。音場定位も悪くない。
音は異常なく出ている。状態は悪くないようだ。同じイギリス製なのでタンノイと切り替え試聴を繰り返してみた。
タンノイに比べるとかなり小型だが、20cmコーン型ウーファーとアルミドームの2.5cmドーム型ユニットにバスレフ・ポートが採用されている。外装は、ナチュラル・チーク材。公称再生周波数帯域は、60Hz~20kHz±3dBとある。
それで音だが、昔の彼女の印象がそのままである。スピーカーはそれぞれに個性があって自己主張するものだが、彼女は明るくおおらかで自然体なのだ。腹にドーンとくるような低域は出ない。キラキラした高音がとげとげしいことはない。リビングにおいても邪魔じゃない。それでいて、音量を上げずともバランスの取れた音を醸し出してくれる。
イギリスのスピーカーは箱もまた命である。このスピーカーは、ダドリー・ハーウッドから受け継いだアラン・ショーの初号機と言われる。箱の共鳴を微妙に計算しているのだろう。JBLのようなガチガチのパーチクルボードではなく、、天然オークの張板に胴鳴りの響きを持たせ、それをバスレフ・ポートが適度に響きを開放しているのだろうか?これはスピーカーと言う楽器と考えたほうがよい。
68歳にしてわがものとなったあこがれの彼女である。しばらく、じっくりと愛聴したい。
大原麗子じゃないが、すこし愛して、なが~く愛して」