昨日のことである。ボクは、真っ裸であわや乱闘寸前の危険なめに身をさらす羽目に陥ってしまった。
いつものように、開店前にスポーツクラブでひと風呂浴びていた最中に、その事件は起こった。ボクは緑内障の手術以来、医師から手洗いの励行と、洗顔・洗髪時には目をよく保護するように言い渡されていた。特に銭湯などの湯船はバイ菌のたまり場。間違っても顔など洗わぬように注意される。時々、洗いグマのように湯船で顔をゴシゴシ洗うご仁を見かけるが、あれはバッチいからやめた方がよい。
そこでボクは、入浴前には、入念に体を洗い、シャワーで洗剤をよく流してから湯船につかるように心がげていた。シャワーを浴びて、野天風呂に向かうと、サウナ室から汗まみれの男がボクの前を歩きだした。ボクはその男のすぐ後ろ歩き、野天風呂へ。するとその男は、汗まみれのままで、野天風呂にドボンと飛び込むではないか!!
(おいおい、止めてほしいな。汗だらけじゃないか・・)と ボクは心の中で呟いた。風呂につかりながら、ボクはその男に「サウナのあとは、シャワーか、掛け湯くらいしてから入ってよ。。」と云ってしまったのだ。
そのとたん・・・その男は瞬間湯沸かし器のごとく逆上し、逆ギレが始まった。
「冗談じゃねいやい!!俺はしっかり体を洗ってから、サウナに入る。だから体も汗も汚なかねいんだ!!。だからサウナ後でも汗なんか流すことはしねい!!てめいは、何さまなんだ!!
おめえだって、風呂の中で汗かくだろう。風呂っていうのは、汗だらけだ。嫌なら、おめいは、風呂に入る資格なんてねい。クラブ辞めて、さっさと出てけ!!!」
えらいケンマクである。
【風呂の中で汗かくのは当たり前だ!!】との男のロジックには、一瞬ボクも(うまいこというね)と感心してしまい、二の句が告げなかった。ボクが思わぬ男の逆襲にたじろいでいると、逆上した男は更に罵詈雑言をボクに浴びせかけるではないか。この瞬間湯沸かし器の逆ギレはエスカレートするばかり。つかみ掛からんばかりで言葉の速射砲をボクに浴びせ続ける。
男は、「だいたいな!!おめいみたいな奴こそ、体も洗わずに風呂に入るんだ!!見なくっても、オメイみていな奴はそうだ・・ウンヌン・・カンヌン・・」怒りはおさまない。
ボクは、「二人で話していてもラチあかないから、支配人の前で決着付けようよ。」と提案した。
男はますます逆上し「てめいが!!支配人をここに呼んで来い!!!。俺は正しいから、いかねゾ!!!」
周囲に二人ほど入浴者がいるが、触らぬ神にたたりなし。皆さん顔をそむけている。これ以上、このバカ男にかかわっていると、身の危険を感じるので、ボクは早々に野天風呂から退散した。
たしかに、風呂の中でも汗はかく。でもね。わざわざサウナのあとの脂ぎった汗を風呂に持ち込まなくってもいいじゃないか。みんなで使うんだから、少しでも清潔が保たれるようにお互い注意するのがマナーってもんじゃないか。
ボクは、サウナのあとは、シャワーを浴びるのが常識だと思っていた。この男のように、風呂の中で、サウナの汗は流すもの。それが常識だと思いこむ人がいるとは思わなかった。この男の常識からすれば、風呂の中でションベンしても汚なかあない。ションベンはおめいの体内を流れているんだから・・となりそうだ。
確かに汗に変わりはないかもしれない。
だが、サウナは強制的に体の新陳代謝を良くし、老廃物を汗として流し出すものだ。大汗は体の老廃物。なにも風呂に大量な汗を持ちこまなくってもいいじゃないか?
大汗を流さぬまま、ザブッと風呂に飛び込むのは、この男にとって、この上ない幸せなのかも知れない。だが不快に思う人が大多数なのだ。こんな男に、世の中のマナーを分からせる方法はないもんだろうか?