山桜を家紋とするわが親族が亡くなると、いつもこの歌を思い出す。
≪桜の花ちりゞりにしも わかれ行く
遠きひとりと君もなりなむ≫ 釋 适空
人の一生って、あっけないものだ。日本初の女性警察署長をつとめ上げた従兄の嫁さんが74歳で亡くなった。それは多くの参列者に見送られ、残された20人ほどの身うちが野辺の送りを見届け、十日祭を済ませて三々五々に散らばっていった。
彼女は、警察官時代の経験を生かし、青少年を犯罪に追いやらぬように各地で講演に回っていた。机上の空論ではなく、実体験を通しての彼女の話は、精神が混迷する現代社会にあっては貴重な伝導師の役割を担うものだった。
私にとっては、近くに越してきた矢先の他界である。我が家でゆっくりと珈琲を飲んでもらえる日を楽しみにしていた。日ごろは疎遠であったが、入院されてからは、病院まで自転車で数度と通い、安らかに眠る寝顔を遠くで見て安堵し、なんとか回復してもらいたいと念じていた。わが一族にとっては、家長家の大黒柱を支えた方だっただけに、この空白は埋めようもない。
喪主の従兄弟が最後に送る言葉は、彼女が最後まで大切にしていた感謝の心≪ありがとう≫だった。
神道では、人は死ねば神様となる。氏神の一人となって我が氏族の守護神となり、末長く見守っていただけるのである。交番の婦警さんから始まり、日本初の女性警察署長まで上り詰めた彼女のことだ。これからは氏神様となって、懐深く慈愛に満ちたあの瞳で末代までも、多くの人たちを見守っていくことだろう。
一人戻って、久しぶりにクラッシクを聴いてみたくなった。ワインを開け、好きなメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲を聴きながら、あなたの人生に≪献杯≫する。人々に尽くしたあなたの一生・・ありがとう。
ワインを片手に、四十六歳で逝ってしまった兄貴の追悼集を開いて読みかえした。なんだか涙がこみ上げて止まらない。
7月14日は、兄貴の命日だった。≪バカヤロウ・・・早く死にやがって・・≫ と、思わぬ言葉が頭に浮かぶ。
写真の中にしか見えない兄貴の顔が18年前のあの日を思い出させた。それは寿命だったのかもしれないが、あの世としか会話できないのは本当にくやしい。
≪故郷の杜(もり)は宴(うたげ)ぞ 新参の神と饗ぜむ夏の夜≫
≪新魂は あい吹く風に誘われて 氏神が集うタブの杜往く≫
NORI翁
≪桜の花ちりゞりにしも わかれ行く
遠きひとりと君もなりなむ≫ 釋 适空
人の一生って、あっけないものだ。日本初の女性警察署長をつとめ上げた従兄の嫁さんが74歳で亡くなった。それは多くの参列者に見送られ、残された20人ほどの身うちが野辺の送りを見届け、十日祭を済ませて三々五々に散らばっていった。
彼女は、警察官時代の経験を生かし、青少年を犯罪に追いやらぬように各地で講演に回っていた。机上の空論ではなく、実体験を通しての彼女の話は、精神が混迷する現代社会にあっては貴重な伝導師の役割を担うものだった。
私にとっては、近くに越してきた矢先の他界である。我が家でゆっくりと珈琲を飲んでもらえる日を楽しみにしていた。日ごろは疎遠であったが、入院されてからは、病院まで自転車で数度と通い、安らかに眠る寝顔を遠くで見て安堵し、なんとか回復してもらいたいと念じていた。わが一族にとっては、家長家の大黒柱を支えた方だっただけに、この空白は埋めようもない。
喪主の従兄弟が最後に送る言葉は、彼女が最後まで大切にしていた感謝の心≪ありがとう≫だった。
神道では、人は死ねば神様となる。氏神の一人となって我が氏族の守護神となり、末長く見守っていただけるのである。交番の婦警さんから始まり、日本初の女性警察署長まで上り詰めた彼女のことだ。これからは氏神様となって、懐深く慈愛に満ちたあの瞳で末代までも、多くの人たちを見守っていくことだろう。
一人戻って、久しぶりにクラッシクを聴いてみたくなった。ワインを開け、好きなメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲を聴きながら、あなたの人生に≪献杯≫する。人々に尽くしたあなたの一生・・ありがとう。
ワインを片手に、四十六歳で逝ってしまった兄貴の追悼集を開いて読みかえした。なんだか涙がこみ上げて止まらない。
7月14日は、兄貴の命日だった。≪バカヤロウ・・・早く死にやがって・・≫ と、思わぬ言葉が頭に浮かぶ。
写真の中にしか見えない兄貴の顔が18年前のあの日を思い出させた。それは寿命だったのかもしれないが、あの世としか会話できないのは本当にくやしい。
≪故郷の杜(もり)は宴(うたげ)ぞ 新参の神と饗ぜむ夏の夜≫
≪新魂は あい吹く風に誘われて 氏神が集うタブの杜往く≫
NORI翁